採用支援をしていると、書類選考の場面でよく出てくるのが「転職回数」です。「転職回数が多いので、定着性が心配です」——そんな理由で見送りになるケースも珍しくありません。では、転職回数は気にしなくてもいいのか。私自身は、そうは思っていません。書類を見るとき、転職回数が多ければ気になります。ただ、ここで大切なのは、気になることと、それだけで見送ることは違うということです。
感覚的には、40代であれば4社程度の経験はそれほど珍しいとは思いませんが、それが倍近くになってくると「なぜだろう?」とセンサーが働きます。半年以内の退職が何社も続いているような場合も同様です。今回は、転職回数について、日々の採用支援の中で感じていることを書いてみたいと思います。
転職回数は「答え」ではなく「きっかけ」
転職回数が多い候補者を見たとき、私は「定着しない人だ」と結論づけるのではなく、「なぜこのキャリアになったのだろう?」と考えます。
転職するたびに専門性を積み上げている人もいます。環境を変えながら、自分の専門性を発揮し、より難易度の高い仕事を経験している人もいます。短期間の在籍でも、一定の成果を残していることが確認できれば、それも判断材料になります。
入社して数カ月で大きな成果を出したと書かれていても、その取り組みは入社前から進んでいたのかもしれません。本人だけではなく、前任者やチームによる成果かもしれません。短期間で「自分が中心となって手を動かし、成果に直結させた」可能性は、長期間在籍しているケースと比べれば低くなる。だから成果そのものは評価しつつ、「具体的に本人は何をしたのか」を確認したくなります。
転職回数も在籍期間も、それ自体が評価なのではなく、もう少し詳しく経歴を見るためのきっかけ。
気になるのは「回数」より「繰り返し」
一方で、私が転職回数以上に気にしていることがあります。それは、同じような転職理由が繰り返されていないかということです。
- 会社の方針と合わなかった
- 経営層の考え方と合わなかった
- 思っていた環境と違った
こうした理由が一度あること自体は、特に珍しいことではありません。ただ、似たような理由で短期間の退職を何度も繰り返している場合は少し気になります。
入社前にもう少し調べたり、選考の中で確認したりすれば分かったことではなかったのか。自分が会社に期待していることを、本人自身が認識できていたのか。そして今回も、思い通りにならないことが起きたとき、同じことを繰り返す可能性はないのか。
転職理由を見ることで、その人が仕事やキャリアに対してどんな考えを持っているのかが、少しずつ見えてきます。だから私は、単純な「6社経験」という数字より、なぜ6社を経験することになったのかを知りたいと思っています。
一社に長く勤めていれば安心、でもない
反対に、一社に長く勤めているから無条件に高く評価する、ということもありません。
例えば、一つの会社に長く在籍しながら、部署異動を経験し、そのたびに新しい専門性を身につけ、異なる役割で実績を積み上げてきた人。こうしたキャリアであれば、転職をしていなくても、いくつもの環境変化を経験しています。もちろん、その経験が今回募集しているポジションに合っているかは別の話です。
ただ、「一社に長く勤めているから定着性が高い」「転職回数が多いから定着性が低い」と単純には言えないと思っています。見るべきなのは会社の数ではなく、そのキャリアの中で何を経験し、何を積み上げてきたのかではないでしょうか。
「6社経験」をどう見るかで、評価は変わる
以前、こんな候補者の方がいました。50歳手前で、経験企業は6社。いずれも技術者として正社員雇用され、派遣先の企業で専門的な業務に携わってきた方でした。
職務経歴書はかなり淡白で、ぱっと見ただけでは強みが分かりにくい。さらに、特定の業界・領域に専門性が寄っていたため、別の業界や職種への転用もしやすいキャリアではありませんでした。転職回数や働き方への先入観もあったのか、他社の選考ではなかなか評価されなかった方です。
ところが、その方の専門性をまさに必要としている企業から見ると、評価はまったく違いました。
積み上げてきた人
同じ職務経歴書でも、何を見るかによって評価は大きく変わります。もちろん、だからといって「転職回数は関係ない」と言いたいわけではありません。ただ、転職回数や雇用形態といった分かりやすい情報だけで判断すると、その人が実際に何を積み上げてきたのかを見落としてしまうことがある。採用支援をしていると、そんなことを感じる場面があります。
採用に苦戦している企業ほど、条件が厳しくなることがある
少し皮肉な話ですが、採用に苦戦している企業ほど、転職回数に対する許容度が低いと感じることがあります。
採用担当者も、ハイアリングマネージャーも忙しい。すべての職務経歴書を細かく読み込み、一人ひとりの転職背景を確認するのは簡単ではありません。だから「転職回数が多い」「短期離職がある」「定着性が心配」といった分かりやすい指標でスクリーニングしたくなる気持ちは理解できます。
定着性を懸念すること自体も、決して間違っているとは思いません。せっかく採用しても、短期間で退職されてしまえば、企業にとっても本人にとっても良い結果にはならないからです。ただ、「定着性が心配だから見送る」で終わってしまうと、採用できる可能性のある人まで手放してしまいます。
- 採用に苦戦している
- だから失敗したくない
- 失敗したくないから、分かりやすい条件で候補者を絞る
- 結果として候補者がさらに少なくなり、ますます採用が難しくなる
そんな循環に入ってしまっているケースもあるように感じます。
定着性への懸念こそ、正面から確認する
私は、転職回数が多い候補者に対して「定着性が気になる」と思うこと自体は自然だと思っています。だからこそ、その懸念に正面から向き合えばいいのではないでしょうか。
- なぜ、それぞれの会社を選んだのか
- 何をきっかけに転職を考えたのか
- 次の会社では何を実現したかったのか
- そして、今回の転職では何を求めているのか
そこまで確認すれば、その人が自社に入社した後、どのような環境であれば定着し、力を発揮できそうなのかも少しずつ見えてきます。
「転職回数が多いから定着性が心配」という仮説を持つところまではいい。でも、その仮説が本当に正しいのかを確認し、自社で同じことが起こる可能性を考えるところまでが、採用部署やハイアリングマネージャーの仕事なのだと思っています。
候補者の方にも、転職理由を書いてほしい
最後に、候補者側にも一つだけ。転職回数が多い方ほど、職務経歴書には転職理由を簡潔に書いてほしいと思っています。できれば「なぜ辞めたのか」だけではなく、「何をきっかけに転職を考え始めたのか」まで書いてあると、採用側としては理解しやすくなります。
例えば、「より上流工程に携わりたかったため」とだけ書かれていると、場合によっては「今の会社ではできなかったのだろうか」「自分の希望が叶わなければ、また転職するのだろうか」と受け取られてしまうことがあります。一方で、組織変更や役割の変化など、転職を意識することになったきっかけがあり、その上で自分のキャリアを考えた結果として次の環境を選んだことが分かれば、受け取り方は変わります。
転職理由には、その人のキャリアに対する考え方も表れます。だからこそ、取り繕いすぎず、簡潔に、できるだけ正直に書いてもらえるとありがたいと思っています。
転職回数は、判断材料。でも、判断そのものではない
転職回数が多ければ、私も気になります。短期離職が続いていれば、なおさらです。でも、それは見送るための答えではなく、「なぜだろう?」と一段深く見るためのセンサーです。
その人は、これまで何を考えて会社を選び、何を経験し、何を積み上げてきたのか。そして、自社に入社したら、どんな環境で定着し、どんな強みを発揮できそうなのか。そこまで見た上で判断する。
転職回数は、判断材料にはなる。でも、判断そのものではない。
採用する側だからこそ、数字の向こう側にあるキャリアまで見にいくことが大切なのではないか。日々、書類選考をしながら、そんなことを考えています。
- 転職回数は見送るための答えではなく、経歴を深く見るためのきっかけ
- 気になるのは回数そのものより、同じ転職理由が繰り返されていないか
- 同じ職務経歴書でも、何を見るかによって評価は大きく変わる
- 採用に苦戦している企業ほど条件を絞り、さらに候補者を減らす循環に陥りやすい
- 定着性への懸念は、見送る理由にせず、面接で正面から確認する

