サッカーのワールドカップがめちゃくちゃ盛り上がってますね。スーパースターが期待通りの活躍をしていたり、初出場の国が大健闘していたり。そして何よりも日本代表の活躍!ワールドカップ初出場から28年・・・、本当に日本サッカーのレベルが上がったなと感じます。
さて、スポーツの世界で起きているデータ革命は、採用の未来を考えるうえで示唆に富んでいます。かつて「結果を数えていた」競技分析が、いまや「過程をまるごと記録する」段階へと移行しました。同じ転換が、採用にも起ころうとしています。経営者の視点から、その本質を考えてみます。
スポーツ分析は「数える」から「記録し続ける」へ変わった
少し前まで、スポーツのデータといえば「結果の集計」でした。サッカーならシュート何本、パス何本。野球ならヒット何本、三振何個。試合中に起きた出来事を、人間が後から数えていたわけです。これはこれで有用ですが、あくまで「起きた結果」を記録したものに過ぎません。
ここに大きな変化をもたらしたのが、トラッキングデータです。たとえばサッカーでは、ピッチ上の22人の選手とボールの座標を毎秒25回ほど記録します。試合が続いている間ずっと、全員の位置が点の集合として残り続ける。日本でもJリーグが2015年からこの仕組みを導入しています。
上空からグラウンドを見下ろし、全員にGPSを打つ。そして1秒間に何十枚ものスナップショットを撮り続ける。それを繋げると、誰がいつどこへ動いたのか、その軌跡がすべて見えてきます。「結果」だけでなく、結果に至るまでの「過程」が丸ごとデータになるということです。
この違いは決定的です。シュート数という結果だけを見ても「なぜ点が取れなかったのか」はわかりません。しかし全員の動きの軌跡があれば、「あの選手の立ち位置が数メートルずれていた」「プレスのかけ方に問題があった」という、結果を生んだ原因にまで踏み込めます。過程が見えるからこそ、次の一手が具体的になる。これがトラッキングデータがもたらした本質的な価値です。
いまの採用は、まだ「結果の集計」の段階にある
ここで採用に目を向けてみます。多くの企業が分析に使っている採用データとは、何でしょうか。応募者数、書類通過率、内定承諾率、選考辞退率。媒体ごとの応募数。──これらはすべて「結果の集計」です。かつてのスポーツ分析と、まったく同じ構造にあります。
もちろん結果の集計にも意味はあります。しかしそれだけでは「なぜこの候補者が辞退したのか」「なぜこの面接官の評価はいつも甘いのか」という、結果を生んだ過程には決して辿り着けません。採用における最も豊かな情報は、数字の集計ではなく、その手前にあるのです。
採用におけるトラッキングデータとは、面接での「会話」そのものではないか。
面接では、毎回おびただしい量の情報が生まれています。候補者がどんな言葉で志望動機を語ったか。何を懸念し、何に魅力を感じたか。面接官がどこを評価し、どこを見落としたか。これらは試合中の選手の動きと同じで、本来なら「過程の連続記録」として蓄積されるべき豊かなデータです。
ところが現実には、その大半が記録されないまま消えていきます。面接官の頭の中に断片的に残るだけで、組織のデータにはならない。辞退理由や承諾の決め手を言語化しても、次の採用に活かされない。これは、毎試合トラッキングデータを取れる環境がありながら、試合後に「シュート3本」とだけメモして捨てているようなものです。
「過程の記録」が、採用を組織の資産に変える
承諾率・辞退率・応募数といった結果の数字だけが残る。なぜその結果になったのかは、面接官個人の記憶の中にしかない。担当者が辞めれば、その知見はゼロに戻る。
面接での会話・評価・懸念が構造化されて蓄積される。「どんな候補者が、なぜ承諾/辞退したか」の過程が組織に残り、次の採用判断の精度が上がっていく。
スポーツの世界では、トラッキングデータを戦術や育成に活かす取り組みが、トップレベルのクラブを中心に広がっています。データを「過程の記録」として蓄積し、分析し、次の戦術に反映できる組織が勝ち続ける。逆に「結果の集計」で止まっている組織は、なぜ勝てないのかすらわからないまま取り残されていきます。
採用も同じ局面に差し掛かっています。面接という豊かな過程を記録し、組織の資産に変えられる企業と、結果の数字だけを眺めて毎回ゼロから採用している企業。経営者が考えるべきは、自社がどちらの道を歩むのか、という選択です。採用は感覚や個人の経験に依存する領域から、データで意思決定を磨き続ける領域へと、確実に移行しつつあります。
- スポーツ分析は「結果の集計」から、過程を丸ごと残す「トラッキングデータ」へ移行した
- いまの採用分析は、かつてのスポーツと同じ「結果の集計」の段階にとどまっている
- 採用における過程の記録とは、面接での会話そのもの。その大半が記録されず消えている
- 過程を組織の資産に変えられる企業が、これからの採用競争で優位に立つ

